前回、多くの女性が抱える「鉄不足」と、鉄不足かどうかをチェックする「フェリチン検査」について解説をしました。
今回は、「検査の結果、鉄不足と分かった場合にどう対処すれば良いか?」について解説していきます。
鉄不足を改善するために、大きく分けて次の2つの方法があります。
- 食事から鉄を摂取する
- サプリメントで鉄を補う
1.は最も基本的で重要なことですが、日常生活で意識することにハードルを感じる人も多いでしょう。
そこで、2.の「サプリメント」を適切に取り入れるという発想もぜひ持っていただきたいと思います。
今回は、鉄不足を改善するにあたって、食事の重要性にも触れつつ、鉄サプリメントの詳しい摂り方について解説していきたいと思います。
この記事を読んでいただければ、次のことがスッキリ解決できます。
- 鉄はどのくらい必要?
- 種類によって5倍も違う!鉄の吸収率について
- 本当に効果があるサプリメントの選び方
- 今日からできる、鉄不足改善の具体的なステップ
それでは解説に移りましょう!
鉄の必要量
私たちは、一日に10〜15mgほどの鉄を食事から摂取し、その内吸収できるのはわずかに1mg程度です。
男性や月経のない女性では、汗や排泄物から1mg/日の鉄を喪失しているため、吸収=喪失のバランスを保つことができます。
ところが、月経のある女性では、月経によって30mg/月の鉄が失われると言われています。
1日あたりにすると、1mgの鉄を喪失している計算になります。
つまり月経のある女性では、理想的な食事を摂ったとしても、吸収<喪失というアンバランスな状態になりやすく、結果的に多くの女性が鉄不足に悩まされることになります。
ここまでの内容を、以下の図にまとめました。
月経のある女性以外にも、以下のような人は鉄不足になりやすいため注意が必要です。
- 妊娠期の女性、成長期のお子さん→より多くの鉄を必要とするため
- アスリートの方など→鉄の喪失が増えるため
鉄の吸収率
鉄不足を補う最も基本的で重要なことは、鉄が豊富な食事を摂ることです。
しかし、それだけでは十分とは言えません。
鉄が豊富な食材を摂取しても、体に吸収されなければ意味がないからです。
「摂取した鉄が、どれくらい体の中に吸収されるか」を意識することも大変重要です。
ヘム鉄と非ヘム鉄
食事に含まれる鉄には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類が存在します。
ヘム鉄は肉や魚に、非ヘム鉄は野菜や豆類、種子類、全粒穀物等に多く含まれています。
また、ヘム鉄の方が体への吸収率が高く、他の栄養素の影響を受けにくいという特徴があります。
それぞれの鉄の特徴について、表にまとめます。
代表的な食材 | 吸収率 | 他の栄養素の影響 | |
---|---|---|---|
ヘム鉄 | 赤肉や赤身の魚 | 約10〜20% | 受けにくい |
非ヘム鉄 | 野菜や豆類、種子類、全粒穀物 ※肉や魚にも含まれる | 約1〜5% | 受けやすい |
鉄不足がある状況で積極的に摂取したいのは、ヘム鉄を多く含む肉や魚です。
一方で、私たちが普段の食事から摂取する鉄のうち、85%以上は非ヘム鉄に依存していると言われているため、非ヘム鉄の吸収率をUPさせることも重要です。
非ヘム鉄の吸収率をUPするには?
以下に、
- 非ヘム鉄の吸収率を高める行動
- 非ヘム鉄の吸収を妨げてしまう行動
をまとめました。
「こんなこと、いちいち気にして生活できない!」
と思われる方は、読み飛ばしていただいても構いません^ ^
避けるものが多くて困ってしまうと思いますが、これはあくまで鉄不足を改善するまでの、いわば「期間限定」の食事法です。
生涯にわたってこのような食事を意識し続けなければならないわけではありませんし、おすすめもしません。
鉄不足が改善されたら、通常の食事に戻しましょう。
ただし、知識として持っておいて損はないと思いますので、暇な時に眺めておくと良いと思います。
サプリメントの選び方
血液検査で鉄不足があった場合、鉄剤での補充を検討しましょう。
鉄剤には、主に次の3種類があります。
それぞれの特徴と使用上の注意について見ていきましょう。
特に、海外製のアミノ酸キレート鉄は、取扱注意なサプリメントですから使用前に、しっかりとリスクを把握するようにしてください。
非ヘム鉄製剤
保険診療で処方される以下の鉄剤は、全てこれに該当します。
- フェロミア(クエン酸第一鉄Na)
- リオナ(クエン酸第二鉄)
- フェルム(フマル酸第一鉄)
- インクレミン(溶性ピロリン酸第二鉄)
- フェロ・グラデュメット(乾燥硫酸鉄)
吐き気や胃痛、ムカつき、下痢などの副作用が出やすいことで知られています。
明らかな鉄欠乏性貧血がある場合は、医療保険で賄われるため、金銭的メリットはあります。
サプリメントとしては、以下の形態でも販売されています。
- 「酵母鉄」
- 「乳酸菌鉄」
どちらも吸収率を高めた鉄サプリメントですが、酵母アレルギーが多いことが知られるようになって以降、乳酸菌鉄を原材料とするものも出てきています。
乳酸菌鉄は、整腸作用も期待できる優れた鉄剤です。
ヘム鉄製剤
国産サプリメントの多くが、この形態を取ります。
ヘム鉄製剤は胃に負担が少なく、副作用が比較的少ないという観点から、利用上のメリットがあります。
ただし、通常販売されているヘム鉄サプリメントは、一回の使用量で鉄10mg程度しか含まれていません。
鉄欠乏性貧血の治療に用いられる医薬品には、鉄が50mg以上含まれていることを考えると、効果は非常に限定的であると考えられます。
比較 | 成分 | 1日分の鉄含有量 |
---|---|---|
処方される医薬品 | 非ヘム鉄 | 50-100mg以上 |
市販されている サプリメント | ヘム鉄 | 10mg前後 |
市販されているヘム鉄サプリメントは、栄養補助的に日常使いするならありかもしれません。
しかし、
- 鉄欠乏を改善したい
- 不定愁訴や慢性症状を克服したい
という目的で使用するには、用量が少なすぎる印象です。
一部の栄養療法を取り入れているクリニックでは、高用量のヘム鉄を含むドクターズサプリメント*というものを扱っている場合があります。
*ドクターズサプリメント・・・医師の指導のもとで、栄養補給することを目的としたサプリメント。医師を通して購入することができる。
こちらのページで導入医療機関の検索ができますので、参考にしてください。
アミノ酸キレート鉄
こちらは、ヘム鉄でも非ヘム鉄でもない、特殊な構造を持った鉄剤です。
日本では製造することができませんので、海外から個人輸入サイトを通して購入することになります。
ここで注意したいのが、アミノ酸キレート鉄は炎症を起こす可能性があるということです。
フェリチン値は貯蔵鉄の指標として有用ですが、次のような状態でも数値が上昇します。
詳細は、前回の記事を参考にしてください。
他のサプリメントに関しても言えることですが、漫然と何ヶ月も飲み続けるのではなく、
「必ず血液検査等で、自身の栄養状態をモニタリングしながら」
目的に応じたサプリメントの使い方をするよう、心がけましょう。
おすすめのサプリメント
上記を踏まえて、
- 鉄不足初期の積極的な鉄補充におすすめのサプリメント2選
- 鉄不足改善後の維持期におすすめのサプリメント1選
をご紹介します^ ^
鉄不足初期のおすすめサプリメント2選
フェロケル(ビスグリシン酸鉄)18mg、NOW Foods社
一つめは、NOW Foods社の「フェロケル(ビスグリシン酸鉄)18mg」です。
こちらはアミノ酸キレート鉄ですので、日本製ではありません。
※NOW Foods社は1968年に設立された、50年以上の歴史を誇るアメリカの健康食品会社です(前身は1948年創業)。低コストかつ、天然由来の高品質な健康食品をうりにしています。世界各国に関連工場を有し、日本へは、上海や香港にある工場から発送されます。
楽天やAmazonにも出品されていますが、iHerbという海外通販サイトから直接購入するのが最もコストが低くおすすめです。
前述の通り、アミノ酸キレート鉄の特性をよく理解した上で、使用してください。
MSS DUO ヘム鉄 9mg、MSS社
もう一つは、MSS社の「MSS DUO ヘム鉄 9mg」です。
1日3〜4粒飲むことを考えて設計された、高濃度のヘム鉄サプリメントです。
ヘム鉄5mgに加え、鉄の吸収率を高め、かつ整腸作用も期待できる乳酸菌鉄4mgが含まれています。
ただし、これは医師を通してでしか入手することができない、ドクターズサプリメントになります。
「セルフケア」という本サイトの趣旨からは外れてしまいますが、重度の鉄欠乏*がある場合は、こちらの導入医療機関を受診されてみてはいかがでしょうか。
*フェリチン<30 ng/mLが目安
鉄不足改善後の維持期におすすめのサプリメント1選
DHC社の「ヘム鉄 10mg/2粒」です。
写真は30日分(60粒入り)ですが、60日分や90日分などの種類があるため、継続日数や価格などで、好きなものを選んでください。
鉄補充の目安 -最低でも3ヶ月は継続する-
鉄の吸収率を意識した食事やサプリメントはどのくらい継続したら良いのでしょうか?
ポイントは以下の通りです。
- 食事やサプリメントによる鉄補充は、少なくとも3ヶ月は継続する。
- 3ヶ月後に再び血液検査を行い、以下の表を参考に「継続」or「終了」の判断をする。
フェリチン値 | 3ヶ月前と変化なし | 3ヶ月前より数値が上昇 |
---|---|---|
50 ng/mL未満 | ・食事→継続 ・フェロケル18mg→ 36mgに増量 | ・食事→継続 ・フェロケル18mgを継続 |
50〜80ng/mL | ・食事→継続 ・フェロケル18mgを継続 | ・食事→継続 ・フェロケル18mg→ ヘム鉄10mgに変更 |
80〜150ng/mL | – | ・食事→通常に戻して良い ・有経女性・妊娠女性→ ヘム鉄10mgに変更 ・その他の方→鉄剤終了 |
150ng/mL | – | ・食事は通常に戻す ・鉄剤は中止 |
長年苦しんできたつらい症状から解放されるためには、それ相応の時間がかかります。
症状によっては、早い人で3ヶ月以内に効果が出ることもありますが、3ヶ月〜1年くらいの長期的な目線を持って、焦らずに補充してあげましょう。
また、症状が良くなってもすぐに鉄補充を止めるのではなく、血液検査で栄養状態をしっかりと評価してから、鉄補充を継続するか、一旦終了するかを検討しましょう。
まとめ -鉄不足改善のための具体的なステップ-
前回の記事から2記事にわたって、
- 鉄不足の症状
- 鉄不足の検査
- 鉄不足の対処方法
について解説してきました。
ボリュームたっぷりの内容でお届けしましたので、鉄不足改善のための具体的なステップをまとめたいと思います。
「鉄不足」は最もありふれた、しかし多くの人に認知されていない栄養医学的な問題です。
鉄不足をセルフケアできるようになることのメリットは計り知れません。
しかし、実践するに当たって不安があるという方もいらっしゃることでしょう。
この記事でわかりにくかったところも含め、質問・疑問の解決に、オンライン栄養・医学相談をぜひご活用ください。
参考文献
- 厚生労働省eJIM | 鉄 | 医療関係者の方へ(参照:2022/05/16)
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