本日のPOINT
「嘔吐」を見たら、持てる知識を総動員して対応に当たろう‼
嘔吐の鑑別
嘔気・嘔吐の鑑別疾患の覚え方として有名なものに、「NAVSEA」があります。
「NAUSEA」が「吐き気」という意味なので覚えやすいですね。
以下、それぞれの頭文字に当てはまる、代表的病態 [見逃しがちな疾患] をお示しします。
嘔吐の鑑別[NAVSEA]
- N:Neuro CNS 脳血管障害, 頭蓋内病変 [髄膜炎]
- A:Abdominal 消化管腹膜系 [腎盂腎炎]
- V:Vestibular 前庭神経 [BPPV, メニエール病]
- S:Somatopsychiatric/ Sympathtic 自律神経, 精神疾患 [ACS, 緑内障発作]
- E:Electrolyte/ endocrinologic disorder 電解質/内分泌異常 [DKA, 異所性妊娠]
- A:Addiction 薬物中毒 [ジギタリス, テオフィリン]
症例提示
ここからが本題です。
皆さん嘔吐というと真っ先に思い浮かべる病態は何でしょうか?
人それぞれとは思いますが、頻度の高い病態として最初のA:消化管腹膜系があげられます。
これからの時期注意したいのが、熱中症や胃腸炎と勘違いし、他の「やばい」疾患を見逃してしまうということです。
いくつか例をあげましょう。
症例1:熱中症と誤診された32歳男性
現病歴
- X年8月 屋外で大工仕事後、食欲不振が出現。
- 翌日起床後より胃痛あり、出勤後も痛みで動けず、2回嘔吐、経口摂取困難。
- 同日救急外来をwalk-in受診.
身体所見/検査所見
- 【バイタルサイン】BP 116/78mmHg, HR 75/min, BT 36.2℃
- 【血液検査】WBC 11300, Hb 17.5, AMY 261, UA 10.5, CRP 0.08, その他測定不能項目多数, 乳び3+
↓↓
経過
- 熱中症に伴う著名な脱水と誤診され、腹痛の訴えにも関わらずCTが施行されることなく、経過観察目的に入院となった。
- 後にTG 6771と著名な上昇を認め、重症急性膵炎であったことが判明し、高次医療機関に転送された。
症例2:熱中症が疑われた42歳男性
症例
- 42歳男性
- 【既往歴】肺結核
- 【主訴】頭痛, 嘔吐, 下痢
現病歴
- Y年8月 外を散歩中、2時間程して徐々に耳鳴り、頭痛, 嘔気が出現した。
- 木陰で休息後も、4回嘔吐、頻回の下痢が出現。
- 同日、当院救急外来をwalk inで受診した。
身体所見/検査所見
- 【バイタルサイン】BP 150/83mmHg, HR 67/min, BT 37.2℃
- 【血液検査】WBC上昇と軽度肝障害のみ
↓↓
経過
- 熱中症を疑い外来で補液を行ったが改善なく、経過観察中に「これまでに自覚したことがない頭痛」を訴えだした。
- 頭部CT/CTAで、くも膜下出血と前交通動脈動脈瘤破裂の診断。
- 脳外on callに連絡、降圧管理、翌日コイル塞栓術が施行された。
症例3:胃腸炎の既往がある71歳女性
症例
- 71歳女性
- 【既往歴】2型糖尿病【内服歴】グリメピリド、エクア【生活歴】生ものの摂取歴なし
- 【主訴】嘔吐, 下痢
現病歴
- 受診3週間前に、急性胃腸炎で3日間入院歴あり。
- 再度頻回の嘔吐と下痢があり、救急要請。
身体所見/検査所見
- 【バイタルサイン】BP 130/58mmHg, HR 118/min, BT 37.1℃
- 【血液/尿検査】BUN 20.2, 血糖 306, AG 16.5, 尿ケトン体3+
↓↓
経過
- 生ものの摂取歴なく、短期間に胃腸炎を繰り返すことは珍しいと考えられ、諸検査を実施すると上記結果。
- 糖尿病性ケトーシスと診断。
- 動脈血液ガスでアシドーシスは見られなかったもののAGの開大を認めた。
- 糖尿病ケトアシドーシスに準じて治療を開始。第3病日にインスリン持続静注を終了し、退院時には持効型インスリン+経口血糖降下薬で血糖管理は良好であった。
まとめ
いかがでしょうか。
嘔吐の原因を、安易に熱中症や胃腸炎といったcommon diseaseに求めてしまった結果、特に【症例1】では、緊急性の高い疾患をrule outすることを怠って、患者さんに不利益を招いてしまいました。
これらの見逃しを防ぐためにも、腹痛や頭痛といった随伴症状に対して適切なアプローチすること、もしかしたら緊急性の高いあの疾患かも…?と疑う姿勢を身に着けることが重要です。
嘔吐を見たら(嘔吐以外でもそうですが…)
- 随伴症状(発熱、呼吸困難、頭/胸/腹/背部痛、めまい…)を確認する
- AMPLE聴取
- 神経学的所見を取る
- 心電図・尿検査・血ガス 等簡便な検査でスクリーニングする
上記のように、初期研修で培った「持てる選択肢」を総動員して、「やばい」疾患は隠れていないかという視点を持って対応するように心がけましょう。
なお、疾患各論については別の記事で紹介しますのでそちらを参考にしてください。
参考記事
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