ビタミンB群は、三大栄養素*1の代謝*2に深く関わるとても重要な栄養素です。
*1 タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)
*2 体の中で起きる、「分解したり合成したり」する全ての反応のこと
ビタミンB群には、以下の8種類の栄養素が存在します。
このうち、血液検査から不足を読み取ることができるビタミンB群は、以下の4種類です。
- ビタミンB6
→アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT) - ナイアシン
→乳酸脱水素酵素(LDH) - 葉酸、ビタミンB12
→ヘモグロビン(Hb)、平均赤血球容積(MCV)
中でも、ビタミンB6はタンパク質代謝に重要な役割をはたす栄養素です。
ビタミンB6の不足が見られる場合、他のビタミンB群も不足している可能性が高いため、ビタミンB6の不足を知ることは、ビタミンB群全体の不足を推測する上でも大変有用です。
本日は、ビタミンB群について以下の順で解説していきます。
それでは解説に移りましょう。
ビタミンB群の働き
ビタミンB群には、私たちの体の中で起こるあらゆる反応をサポートする働きがあります。
体で起こる反応を酵素反応、酵素をサポートする役割を果たすものを補酵素(あるいは補因子)と言います。
酵素反応や補酵素に関しては、こちらの記事を参考にしてください。
ここでは、ビタミンB群が関係している重要な酵素反応のうち、一部をご紹介したいと思います。
エネルギー代謝
私たちが生きていくためには、食事からエネルギーを作り出すことが必要です。
エネルギーの源になる栄養素は、「三大栄養素」として知られています。
- タンパク質…アミノ酸が多数結合したもの。
- 脂質…中性脂肪やコレステロール等が含まれる。主にエネルギー代謝に関わるのは中性脂肪*である。
*中性脂肪…グリセロールに脂肪酸が3分子結合したもの - 炭水化物…炭水化物は糖質と食物繊維を合わせた呼び名。
エネルギー代謝に関わるのは糖質*である。
*糖質…ブドウ糖や果糖などの単糖類と、それらが複数結合した二糖類や多糖類を表す総称
私たちの体の中では、三大栄養素から「アデノシン三リン酸(ATP)」が作り出され、エネルギー源として利用しています。
この時、必要になるのがビタミンB群です。
図は、エネルギー代謝の過程を模式的にまとめたものです。
- アミノ酸をピルビン酸に変える→ビタミンB6が必要
- 脂肪酸をアセチルCoAに変える→ビタミンB2が必要
- ピルビン酸をアセチルCoAに変える→ビタミンB1が必要
ATPを作り出すために様々な反応が引き起こされますが、その反応には多くのビタミンB群が関与していることがお分かりいただけると思います。
神経伝達物質の合成
前回、「体のあらゆるものがタンパク質で作られている」ことをお伝えしました。
タンパク質からつくられるものの一つに、神経伝達物質があります。
神経伝達物質は、心や感情といった精神状態に深く関わりのある物質です。
ビタミンB群が不足すると、タンパク質から神経伝達物質を十分につくることができなくなるため、様々な精神症状が現れます。
特に、ビタミンB6やナイアシンの不足は、多くの精神症状を主体とする不定愁訴に関係しています。
column 〜神経伝達物質とは?〜
文字通り、神経から神経へと情報伝達を担う物質のこと。
神経どうしのつながりには、以下の2種類が存在します。
- アクセルの役割を果たすもの(興奮性シナプス)
- ブレーキの役割を果たすもの(抑制性シナプス)
それぞれに用いられる神経伝達物質は以下の通りです。
さらに、これら神経間の情報伝達を調節する神経伝達物質が、メラトニンやセロトニン等です。
興奮性シナプスの神経伝達物質が減少すると、集中力・やる気が低下し、無気力・無関心といったうつ病を疑わせるような症状が起こり得ます。
一方、GABAが不足するとイライラや異常な興奮
ホモシステインと美容
メチオニンというアミノ酸が代謝を受けると、ホモシステインと呼ばれる中間代謝物を生じます。
ホモシステインは再びメチオニンに変換されたり、システインという物質に変えられたりします。
メチオニンは遺伝子の調節に働き、システインは肌を若々しく保つのに働きます。
一方で、ホモシステインは動脈硬化や認知症などの原因物質である可能性が指摘されています。
図のように、これらの代謝にはビタミンB2、B6、B12、葉酸等多くのビタミンB群が関与しています。
ビタミンB群が不足すると、メチオニンやシステインという体にとって良い効果をもたらすアミノ酸が減少し、ホモシステインという体にとって多すぎると困る物質が増えてしまうのです。
ビタミンB群不足で引き起こされる症状
前述の通り、ビタミンB群は様々な働きを持ちます。
加工・精製された食品には、ビタミンB群の含有量が少ないほか、ストレスや暴飲暴食はビタミンB群の消費量を増やします。
ビタミンB群が不足すると非常に多様な症状を引き起こします。
血液検査からビタミンB群不足を読み取る方法
それでは、実際にビタミンB群不足を血液検査から読み取る方法について解説していきたいと思います。
ビタミンB6不足を評価する血液検査項目
ビタミンB6は次のような血液検査項目で評価することができます。
ビタミンB6不足を評価する ための血液検査項目 | 理想値(栄養状態の 指標となる臨床判断値) | 単位 |
---|---|---|
アスパラギン酸アミノ トランスフェラーゼ (AST) | 18-29 | U/L |
アラニンアミノ トランスフェラーゼ (ALT) | 15-29 | U/L |
AST-ALT | 2以下 | U/L |
「その症状、タンパク質不足かもしれません」でも軽く触れましたが、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)はあらゆる組織(臓器)に含まれる酵素です。
どのような酵素かというと、アミノ酸を利用するために大変重要な役割を果たす酵素です。
ASTもALTも、補酵素としてビタミンB6誘導体*を必要とします。
*誘導体とは…ある化合物から一部だけ変化した物質のこと。ビタミンB6誘導体はビタミンB6を原料に作られる。
ASTよりもALTの方が血液中でビタミンB6誘導体と結合している割合が大きいため、ビタミンB6不足の影響をより強く受けます。
このため、ビタミンB6が不足するとAST・ALTの値がどちらも低下するのに加え、ASTとALTとの間に差が生まれるのです。
ナイアシン不足を評価する血液検査項目
ナイアシン(B3)不足は次の血液検査項目で評価することができます。
ナイアシン(B3)不足を評価する ための血液検査項目 | 理想値(栄養状態の 指標となる臨床判断値) | 単位 |
---|---|---|
乳酸脱水素酵素 (LDH) | 170-240 | U/L |
乳酸脱水素酵素(LDH)は、AST・ALT同様さまざまな組織に含まれる酵素です。
LDHは補酵素としてナイアシン誘導体*を必要とします。
このため、ナイアシン不足はLDHの値に反映されます。
葉酸、ビタミンB12不足を評価する血液検査項目
葉酸、ビタミンB12不足は次のような血液検査項目で評価することができます。
葉酸、ビタミンB12不足を 評価するための血液検査項目 | 理想値(栄養状態の 指標となる臨床判断値) | 単位 |
---|---|---|
ヘモグロビン (Hb) | 14-15以上 | g/dL |
平均赤血球容積 (MCV) | 94-97 | fL |
特に以下のような状態では葉酸、ビタミンB12不足がより疑われます。
- Hb<12 g/dL(男性では13 g/dL未満)
- MCV>100 fL
- 菜食主義、長期大量飲酒、拒食症など、極端な偏食や、食生活の乱れがある
まとめ
今回は、次の3点について解説してきました。
- ビタミンB群の働き
- ビタミンB群不足に関連する症状
- ビタミンB群不足を血液検査から読み取る方法
それぞれの項目で解説したことのポイントをまとめると、次のようになります。
- ビタミンB群は大きく分けて8種類存在する。
- ビタミンB群は体中のあらゆる酵素反応に必要不可欠な補酵素である。
- ビタミンB群は現代において不足しやすい栄養素であり、不足すると様々な不定愁訴を引き起こす。
- ビタミンB群不足を評価する血液検査項目と、それぞれの最適な値は以下の通り。
※絶対的な数字ではなく、前回の検査と比較して「数値がどう変化したか?」という経過を重視しましょう。
※数値を上下させる要因は一つではありません。様々な角度から数値を解釈するために、専門の医療者に相談することも検討しましょう。
ビタミンB群不足は、タンパク質不足と同時に引き起こされることがよくあります。
次回は、タンパク質・ビタミンB群不足を解消する方法についてお伝えしていきます。
最後まで記事を読んでいただき、ありがとうございました^ ^
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