本日のPOINT:安静度を決める=患者さんのADLを制限するということ。退院後を見据えて慎重に検討する。
初期研修医になった4月、新人看護師がまだオリエンテーションや研修をしている中、初期研修医は、数日間の業務とはあんまり関係のなさそうな軽いオリエンテーションがあった後、すぐさま各診療科に配属され、早速病棟業務が始まります。
とにかくいろんなことを知らぬまま、聞かされぬまま「医師」としての働きが求められるのです。病気に関する知識は、国家試験を潜り抜けてきた初期研修医ですから、ある程度のことは身についているはずです。しかし、国家試験では全く勉強しないが、病院で働くにあたって覚えなければならないことというものが山ほどあり、それらを体系的に学ぶ機会は現状ありません。
先輩医師に聞いても、彼らもまた体系的に学んでこなかったため、人によって言うことが違うし、ひどい場合には” 適当でいいよ” などと全く無責任なことを言う人もいます。
前置きが長くなってしまいましたが、この「国家試験では学ばないが、働く上で必要な知識」のうち、今回は「安静度の決め方」について触れてみたいと思います。
安静度とは
入院患者さんにおいて、どの程度までの行動(範囲)を許容するかを患者さん毎に検討します。こうして決めたものが「安静度」です。基本的には主治医が決め、看護師やコメディカルに伝達します。
安静度を検討する前に、日常生活動作(ADL)についてざっと知っておく必要があります。
日常生活動作(ADL)とは
文字通り、日常生活を送るうえで不可欠な動作のことです。ここでは詳しい評価の方法について記述したいわけではなく、ADLという概念をふわっと知っておいていただくことを目的とします。
ADLの覚え方として、その頭文字をとって”DEATH” という覚え方が有名です。生きるために必要な最低限の営み、すなわちやらなければ”Death” 死んじゃうといったところでしょうか。
D | Dressing | 更衣 | →安静度を決めるに当たっては、あまり気にする必要なし。 |
E | Eating | 食事 | →重要。食事も治療のひとつ。また姿勢次第では食事摂取が困難な場合も。 |
A | Ambulation | 移動 | →安静度の肝。元々、歩いていた?杖歩行?車いす?寝たきり? |
T | Toileting | 排泄 | →重要。トイレまで歩けるのか、車いすが必要なのか、ベッド上で行うのか。 |
H | Hygiene | 整容 | →気にする。風呂を含む。清拭までなのか、洗面可なのか、シャワー可なのか。 |
安静度の決定はすなわち、入院生活におけるADLを制限するということにほかなりません。上記のように、”移動” を軸に、”食事” や ”排泄” 、”整容” について、「ここまではOK」「この動作はやらないでね」という風に患者さんの行動を制御するのです。
おのずと、入院前の自宅等におけるADLがどうであったか、を知る必要があるということに気づくはずです。
安静度を決める目的
なぜ安静度を決めるのでしょうか?
疾患の中には、発症後24~48時間はベッド上安静の方がよろしいとか、数週間は荷重をかけない方が治りが早くなるといったエビデンスの蓄積されたものがあります。
すなわち、患者さんが一日でも早くつらい症状や入院生活から解放されるため、治療の一環として一時的に患者さんの行動を制限することが、安静度を決定する目的なわけです。
この考え方がとても重要です。よくありがちなのが、急性期だからとりあえずベッド上安静にしたけど、思ったよりも治療が難渋して離床させるタイミングを逸してしまい、筋力も体力も低下して歩けなくなるばかりか誤嚥性肺炎を繰り返して、自宅に帰れなくなったといった状況です。
患者さんを良くするために患者さんの行動を制限したはずなのに、安静度を決めるということが本来の目的から外れて、結果的に患者さんにとって不利益にはたらいてしまったという典型的パターンです。このパターンだけはどうしても避けなければなりません。
安静度の決め方
安静度を決定する際の、考え方のポイントは以下の通りです。あくまで、症例毎に個別に判断する必要があるという大前提の下で、参考程度にみていただければと思います。
- まずは元々のADLを把握する。
- 元々のADLに戻れるのか、ゴールとなるADLをどのレベルに設定するのかだいたいの目標を立てる。
- 個々の疾患に応じて、ADL上の禁忌がないかどうか検討する。
- ADLを制限する場合、目安となる期間を設ける。
- 安静度は定期的に見直す。
具体的に話を進めた方がわかりやすいと思うので、例を挙げて解説していきます。
例えば、60代女性、尻もちをついて受傷した腰椎圧迫骨折の患者さんが入院してきました。悪性腫瘍等の特別な既往歴はありません。この方の安静度をどのように決定しますか?
- まずは元々のADLを把握することから始めます。元々施設に入所中ですべて身の回りのことを施設職員にやってもらい、トイレまで行くのも車いす、車いすの乗り降りも職員2人がかりでやっと、というような患者さんなのであれば、どんなに臨床経過が順調でも安静度を「歩行可」にする必要はないですからね。この方の場合、目立った認知機能の低下を認めず、元々ADLはすべて自立していました。
- 圧迫骨折の程度にもよりますが、元々のADLを目標に設定します。
- ADL上の禁忌がないかどうか検討します。胸椎/腰椎圧迫骨折の場合、発症後2週間程度は免荷すること(荷重をかけないこと)で椎体の圧潰が進行することを防ぎ、骨癒合が得られる可能性が高くなるとされております。すなわち、この場合発症2週間以内の安静度は「ベッド上安静。飲食時のみギャッチアップ(ベッドの背もたれを起こすこと)30°まで。尿瓶、差し込み型便器使用。」が適当であると考えられます。
- 目安として2週間と設定します。コルセットがいつ出来上がるか、痛みがどの程度改善しているかといった臨床経過によっては、これよりも絶対安静の期間が短くなることもあれば、多少長引いてしまうこともあるでしょう。
- 4.で述べたような臨床経過をみながら、現在の安静度が適当かどうか定期的に見直します。
まとめ
安静度は、時として患者さんの生活を一変させてしまうこともある重要な要素です。急性期だからといって、漫然とベッド上安静を指示し続けることのないように注意しましょう(^o^/
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