突然ですが、質問です。
私たちの身体は、食品から摂取した栄養素でできています。
私たちの身体を構成する栄養素の中で最も多いのは「水」であり、体重の約63%を占めています。
では、2番目に多いのは何が、どのくらいの割合を占めているでしょうか?
ふ〜ん、、人間は「米」や「パン」をよく食べるニャ。「主食」と呼ばれるくらいだから、「糖質」ではないかニャ?
人間はだいたい体脂肪率15%くらいバブ。だから「脂質」じゃないかバブゥ、、?
ふたりとも鋭い視点を持っているね。だけど、どちらも不正解。皆さんはわかりますか?
正解は、「タンパク質」で、体重の約16%を占めています。
3番目が「脂質」の約15%。
「糖質」は摂取エネルギー比こそ、約55%と半分以上を占めますが、私たちの身体に占める割合はたったの1%未満に過ぎません。
今回は、「タンパク質不足」という不定愁訴や慢性症状に関わる重要な栄養状態の問題を、血液検査から読み取る方法についてお伝えしていきたいと思います。
次の構成で解説をしていきます。
- タンパク質の働きと不足に関連する症状
- タンパク質の目標量
- 血液検査からタンパク質不足を読み取る方法
- タンパク質代謝のメカニズム
- 各検査項目の読み方
- まとめ
それでは解説していきます。
タンパク質の働きと不足に関連する症状
先ほど述べた通り、水を除くと、私たちの体のおよそ半分が「タンパク質」でできています。
タンパク質というと、真っ先に「筋肉」を思い浮かべる人がいるかも知れませんが、その他にも体のあらゆるものがタンパク質でつくられています。
上の表は、タンパク質の主な働きと、不足すると生じやすい様々な症状についてまとめられています。
- 肌が荒れる、髪の毛が傷んでいる
- 疲れやすい
- 食欲が湧かない
- 夕方になると足が浮腫む
- 集中力が続かない、イライラする、うつっぽい
- 眠りが浅い、悪夢を見る 等
このような症状が数ヶ月続く場合は、慢性的なタンパク質不足が関係しているかも知れません。
タンパク質の目標量
タンパク質は、常に作られては壊されてを繰り返しており、一部は体外に排泄されます。
つまり、食事から継続的に補給し続けなければなりません。
それでは一体、どのくらいの量のタンパク質を摂取することを目標としたら良いのでしょうか?
日本人の食事摂取基準(2020 年版)によると、一日に摂取するタンパク質は、
- 18~49歳:摂取エネルギーの13~20%
- 50~64歳:14~20%
- 65歳以上:15~20%
が理想(目標量*)とされています。
*生活習慣病の発症予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量
「摂取エネルギーの○%」という表現が、ピンと来ないという方もいるかもしれません。
とても大雑把な目安ですが、摂取エネルギーの目安は、
「kg体重×40 (kcal)」
と概算することができます。
タンパク質は1gあたり4kcalのエネルギーを生み出すので、例えば「摂取エネルギーの15%」に相当するタンパク質(g)は、次のように計算されます。
kg体重×1.5 (g)
(例)体重60kgの人であれば、60×1.5 = 90 (g)
すなわち、タンパク質の目標量は、
kg体重の1.3〜2.0倍 (g)
と見積もることができます。
タンパク質の目標量に13〜20%と開きがあるのは、個人差が大きいからです。
一般に、成長期の子供や妊娠授乳中の女性、アスリートなどでは必要とするタンパク質の量が増加します。
数字はあくまで目安であり、自分に合ったタンパク質摂取量を探る必要があります。
何をどのくらい食べれば良いのか、と言うことについては、別記事で解説しますので参考にしてください。
血液検査からタンパク質不足を読み取る方法
それでは、実際にタンパク質不足を血液検査から読み取る方法について解説していきたいと思います。
タンパク質は次のような血液検査項目で評価することができます。
タンパク質不足を評価する ための血液検査項目 | 理想値(栄養状態の 指標となる臨床判断値) | 単位 |
---|---|---|
ガンマグルタミル トランスペプチダーゼ (γ-GTP) | 16-24 | U/L |
アスパラギン酸アミノ トランスフェラーゼ (AST) | 18-29 | U/L |
アラニンアミノ トランスフェラーゼ (ALT) | 15-29 | U/L |
乳酸脱水素酵素 (LDH) | 170-240 | U/L |
総蛋白(TP) | 7.5-8.0 | g/dL |
アルブミン(ALB) | 4.5-5.5 | g/dL |
総コレステロール (T-Cho) | 170-280 | mg/dL |
ヘモグロビン(Hb) | 14-15以上 | g/dL |
尿素窒素(BUN) | 15-20 | mg/dL |
タンパク質の摂取量が不足する、またはタンパク質の代謝が低下すると、各項目の数値が理想値を下回ります。
タンパク質代謝のメカニズム
各検査項目を読む前に、私たちの体の中でタンパク質がどのように利用されているのか、について理解する必要があります。
- 食事から摂取したタンパク質は、胃や腸で消化され、アミノ酸として吸収されます。*1
*1 一部はペプチド(アミノ酸とアミノ酸が少数結合したもの)の形でも吸収されます。 - 吸収されたアミノ酸は、体を構成するタンパク質に合成*2されたり、エネルギー源となったりします。
*2 体を構成するタンパク質は常に作り替えられており、タンパク質⇄アミノ酸は合成と分解を繰り返しています。 - アミノ酸を利用する際に発生した窒素化合物(BUN)は、尿へと排出されます。
このようにして、タンパク質は我々の体の中で利用されたり、排泄されたりしています。
この一連の流れのことを、タンパク代謝と呼びます。
1や2の反応には、次のような酵素が関与します。
- ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)
- アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
- アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
- 乳酸脱水素酵素(LDH) 等
また、以下のような値は、体を構成するタンパク質の実質的な量を反映します。
- 総蛋白(TP)
- アルブミン(ALB)
- 総コレステロール(T-Cho)
- ヘモグロビン(Hb) 等
尿素窒素(BUN)は、一般的には腎機能の指標とされますが、腎機能が正常な場合、次の指標とすることができます。
- タンパク質の摂取量
- タンパク質代謝が円滑に行われているか
各検査項目の読み方
それでは、一つ一つの検査項目について詳しく見ていきましょう。
ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)
γ-GTPは、アミノ酸代謝や肝臓での解毒に関わる酵素です。
このため、肝臓や胆道の異常、飲酒習慣等があると数値が上昇します。
一般的に、数値が高いと何らかの異常が疑われますが、数値が低いことを気に留める人は多くありません。
しかし、栄養医学的には、むしろγ-GTPが低いことを問題視し、栄養アプローチにつなげます。
γ-GTP単独で評価することはできませんが、γ-GTP 15 U/L以下かつ、他のタンパク質の検査項目も低値であった場合、タンパク質の摂取量不足やタンパク質代謝の低下を疑います。
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)/乳酸脱水素酵素(LDH)
AST/ALT/LDHは、あらゆる組織(臓器)に含まれる酵素です。
このため、組織が破壊されると血液の中に漏れ出し、数値が上昇します。
また、AST/ALT/LDHは、アミノ酸を利用する際にも大きな役割を果たします。
このため、アミノ酸の元となるタンパク質の摂取が低下したり、AST/ALT/LDHが働くために必要なビタミンB群等が不足すると血液中の値が低下します。
総蛋白(TP)/アルブミン(ALB)
TPは、血液中のタンパク質の総和を反映します。
ALBは、TPの70%を占めるタンパク質です。
栄養医学的には、ALBが低下している時に、タンパク質不足やタンパク質代謝の低下を疑うことが重要です。
総コレステロール(T-Cho)
コレステロールと聞くと、メタボリックシンドロームや脂質異常症など、「値が高い=健康に悪い」というイメージを抱く方が多いのではないでしょうか?
しかしそれは、必ずしも正しい解釈ではありません。
総コレステロールは重要なタンパク質代謝の指標です。
コレステロールは、タンパク質と結合して血液の中を運ばれるため、タンパク質が不足するとコレステロール値も下がります。
コレステロールは、細胞膜やホルモン、胆汁酸、ビタミンDなどを構成する、重要な栄養素です。
栄養医学的には、高いことよりもむしろ低いことが問題であり、適切な栄養アプローチが必要です。
ヘモグロビン(Hb)
Hbは貧血の指標ですが、実はタンパク質不足でも数値が低下します。
脱水があると数値が上昇してしまったり、貧血で数値が低下したりするため、単独では評価が難しく、他の検査項目と照らし合わせて解釈するのが一般的です。
尿素窒素(BUN)
一般に、腎機能の低下、脱水、消化管からの出血等で、BUNの値は上昇します。
一方、栄養医学的には、BUNはタンパク質代謝のとても良い指標となります。
特に、BUNが一桁の時には、タンパク質不足を強く疑います。
まとめ
今回は、次の3点について解説してきました。
- タンパク質の働きと不足に関連する症状
- タンパク質の目標量
- 血液検査からタンパク質不足を読み取る方法
それぞれの項目で解説したことのポイントをまとめると、次のようになります。
- 水を除くと、私たちの体のおよそ半分が「タンパク質」でできている
- タンパク質が不足すると、様々な症状が現れる
- タンパク質の目標量は、「kg体重の1.3〜2.0倍 (g)」
- 各検査項目の最適な濃度は、以下の通り。
※絶対的な数字ではなく、前回の検査と比較して「数値がどう変化したか?」という経過を重視しましょう。
※数値を上下させる要因は一つではありません。様々な角度から数値を解釈するために、専門の医療者に相談することも検討しましょう。
次回は、タンパク質代謝と深く関わりのある、「ビタミンB群不足の評価方法」について解説していきたいと思います。
最後まで記事を読んでいただき、ありがとうございました^ ^
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